実際にアメリカのケースを見ますと、一九八○年代に発生したS&Lの問題のときは、S&Lの経営者たちは責任を問われています。
極めて特殊なケースで、残念ながら今の日本のマスコミの方は全然そのことを理解していません。
あれは、今の日本の参考にまったくならないケースです。
一○○○人強が牢屋にぶち込まれたS&L問題がなぜ参考にならないか、ちょっと説明させていただきます。
あのときアメリカで起きたことを説明するには、そのときからさらに一○年さかのぼる必要があります。
一九七九年に、私が以前おりましたアメリカのFRBが、これまで何十年間か続いた金融政策を根底から引っ繰り返します。
七九年一○月までは、アメリカの金融当局は短期金利を五パーセントから一○パーセントあたりにコントロールしてきました。
金利は自由化されていなかったわけです。
ところが七○年代の末には、思い出していただきますと、第二次オイルショックが発生しました。
このとき、アメリカは二桁のインフレに突入します。
アメリカの平時の歴史の中で、二桁のインフレというのは本当にあのときしかありません。
もう大変なことだというわけで、金融政策を変えて、金利も自由化しようということになったのです。
その代わりマネーサプライをコントロールするというスタンスに変え、その変更が七九年一そうすると、アメリカの短期金利は一○パーセント弱から一気に一三パーセントまでいきました。
短期金利は二二パーセントとなって、インフレはコントロールできたのですが、そのときにS&Lの問題が発生します。
S&Lはそれまで法律で、住宅ローンにしかお金を貸してはいけないということになっていました。
しかもその住宅ローンは、当時のアメリカでは三○年の固定金利だったのです。
変動金利の商品はそのときなく、三○年の住宅ローンの平均金利は七パーセントから一○パーセントでした。
そんなところに、ある日、短期金利が突然一三パーセントまでいったのです。
S&Lにとって短期の調達金利は一三パーセントで、資産から入ってくる住宅ローンの金利はわずか七パーセント。
それで七九年の一○月の時点で、S&Lはすべて債務超過に陥ったのです。
でもS&Lの経営者が無能だったからではなく、金融政策の枠組みが根底から変わった結果です。
完全に不可抗力の中で、債務超過問題が起きたわけです。
アメリカの当局は、「経営者の責任ではなくて、我々の責任だ」と理解し、すべてのS&Lに対して政府補償を出しました。
今はたまインフレがひどいから短期金利が一三パーセントになっているけれど、やがてインフレが落ち着けば、金利も下がってきます。
そうすれば調達金利が再び貸出金利を下回り、S&Lは全部生き返るわけです。
五、六年すれば元の状態に戻るだろうと、政府は考え補償を出したのです。
そのときに、住宅ローンしか貸し出せないという法律も、「何に貸してもいい」と改めました。
その代わり、S&Lは早く収益を稼いで元気な体になってくださいというわけでその政府の善意を逆手にとった悪い連中が現れました。
どういうふうにやったか。
S&Lは、一応、政府補償で営業していますが、債務超過ですから自己資本がありません。
乗っ取ろうと思えば、ただみたいな金額で乗っ取ることができるのです。
悪い奴らは最初から考えていたようで、S&Lを次々と乗っ取っていったのです。
乗っ取ったS&Lには政府補償がついていますから、預金はいくらでも集まる。
そこからハイリスク・ハイリターンの投資を始めたのです。
この犯罪者の立場からしてみれば、政府補償があるのだから、お金はいくらでも集まる。
自分が投資に失敗しても、そのツケは全部政府に回る。
成功すれば、全部自分のものになります。
それで大挙してこういう連中が入ってきて、ハイリスク・ハイリターンの投資をやった結果、焦げついたのがS&Lの問題なのです。
日本では想像できないようなある種の事故というのが、S&L問題なのです。
もしも同じようなことを日本でやろうとしたら、どうでしょうか。
例えばある倒産してしまった銀行の一円くらいに落ちてしまった株を全部買いあさって、政府から補償をもらい、それでハィリスク・ハイリターンの投資をやるようなものです。
もちろん、そんなものに政府補償がつくはずがなく、その意味でS&Lの話は全然日本の参考にはならないのです。
このとき一○○○人強がアメリカでは牢屋にぶち込まれましたが、あれは計画的に政府の信用を悪用しようとした犯罪者が牢屋に入ったのであって、経営責任を負い投資判断を間違えたから牢屋に入ったのではないのです。
その点が、日本の中ではまったく混同されているようです。
「あのとき一○○○人強も牢屋に入って、日本ではまだ一人も入っていないじゃないか。
おかしい」と言っていますが、全然事情が違うのです。
そうでないケースのアメリカ政府の対応は、どうであったか。
アメリカ当局は、一九三しています。
いい銀行.悪い銀行と選別をせずに、全部同じように扱ったのです。
九○年代は、商業用不動産が供給過剰になったため商業用不動産価格が暴落して、米銀には巨額の不良債権が発生しました。
その結果、アメリカでは商業銀行を中心に大変な貸し渋りが発生しました。
九○年から九三年までで、アメリカでは失業者が三○○万人も増えるという大変な事態になり、当初はもう絶対再選間違いなしと言われていた湾岸戦争の英雄B大統領が、今のマスコミの議論を聞いていますと、とにかく金融機関の経営責任の追及です。
経営責任を追及できれば、条件にしてお金を出してもいい。
優先株を買ってもいいというようなトーンにマスコミの話は動いていますが、とんでもない話です。
無名の新人Cに負けるという深刻な政治問題にまで発展しています。
あのとき慌てた当局は、こういう対応をとりました。
銀行の貸出金利は六パーセントのままにして、その代わり、銀行の調達金利を三パーセントにまで下げたのです。
丸々三ポイントの利ざやを銀行が稼げるようにしたまま、二年間アメリカの預金者に我慢させたのです。
その結果、銀行が元気になり、九三年の第四四半期から景気が戻ってきたのです。
すべての銀行にまんべんなく適用されました。
銀行の峻別は一切行なわれなかったのです。
三○年代の優先株発行のときも、同様な対応になっています。
システム全体の問題があるときには、個別に経営責任を追及している場合ではありません。
システム全体への対応がどうあるべきかを考えることが先決なのです。
もしも政府が銀行経営者に経営責任を問うならば、おそらく多くの銀行は、そんな条件がつくなら結構だとお金を断ってきます。
優先株なんか買ってもらわなくても、これまでの方法で、自分たちでなんとかやっていくよと言い出すでしょう。
断られたときこそ、日本政府はどうしようもなくなってしまいます。
もう格好悪くて次は「ああ、失礼しました・経営責任は問いませんから、お金どうぞ」と言うわけにはいかないのです。
そうなると政府は次の手が打てなくなってしまい、解決の主導権を完全に失ってしまいます。
実は一九三○年代のアメリカも、この問題に直面しました。
このとき、アメリカ政府は最初から銀行の経営責任を問題にしていたわけではありませんでした。
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